農地を別の用途で使用する際には、農地転用の手続きが必要となります。
しかし、「手続きが煩雑そうだ」「どのような書類を収集すればよいのか分からない」といったイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、農地転用の手続きや費用についてご説明いたします。
農地転用とは
農地転用とは、農地をそれ以外の用途に転換することを指します。
具体的には、住宅や駐車場、資材置き場などに転換するケースが挙げられます。
食料自給率の低い日本では、農業生産性の観点から農地の確保は重要ですが、土地を有効活用するために転用が必要となる場合もあります。
その際に、農業生産性と転用の調和を図るため、日本では農地法という法律を制定しており、農地転用に対して一定の規制を設けているのです。
農地転用には許可が必要?
上記の通り、農地転用には一定の規制が設けられており、原則として農地の用途を転換させる際には許可が必要です。
仮に、許可を得ずに農地転用を行った場合、工事の中止や原状回復等の命令がなされ、懲役や罰金といった罰則を科される可能性もあります。
ただし、転用をする予定の土地の種類や、転用の目的によっては、許可を取得しなくても良い場合もあります。
ここでは、農地転用を行う際に許可を取得すべきケースを、土地の種類および利用目的に分けて解説します。
農地(土地)の種類で許可が必要かがわかる
土地は、都市計画に基づいてその用途が規定されており、その区域によって許可を取得する必要性の有無が異なります。
以下で、詳しくご紹介します。
市街化区域
市街化区域とは、既に市街地が形成されている、もしくは今後10年以内に計画的かつ優先的に形成される区域を指します。
市街化区域は、人家や商業施設が多く見られ、農地や森林などはあまり見られません。
そのため、農地転用の許可の取得は不要であり、代わりに届出が必要となります。
届出は許可と異なり、必要事項を記載した必要書類を提出すれば原則として受理されるため、その手続きは比較的簡単であるといえます。
市街化調整区域
市街化調整区域とは、市街化開発の進行を抑制しており、人が住むためのまちづくりを行わない予定の区域を指します。
市街化調整区域は、農地や森林の保全に重点が置かれ、原則としては家などを建設できません。
そのため、農地転用を行う際には、許可が必要となります。
市街化開発を原則認めない区域であるため、許可を取得するにはハードルが高いといえます。
上記以外の区域
上記の他にも、都市計画区域内で市街化区域・市街化調整区域のいずれにも分類されない「非線引き区域」の土地も存在しています。
このような土地で農地転用を行う場合にも、許可の取得が必要です。
自分の土地の種類を調べる方法
ご自身の土地の種類を調査する場合には、役所の都市計画課で「都市計画地図」を開きます。
そして、ご自身の土地が都市計画区域に指定されているかを調べ、指定されている場合には市街化区域・市街化調整区域のいずれに指定されているかを確認します。
目的によっては許可が不要な場合がある
農地転用を行う際に許可が必要な土地であっても、その目的によっては許可が不要となる場合があります。
具体的には、
- 土地収用法によって収用または使用された農地を、その目的に供するために転用する場合
- 耕作事業者が、自己の農作物育成のため、200㎡未満の農地を農業用施設に転用する場合
- 土地区画整理事業の施行によって、道路や公園等の公共施設を建設するため転用する場合
などが挙げられます。
農地転用の流れ
農地転用を行う際には、土地の種類に応じた手続きが必要となります。
以下では、農地転用の流れをご説明します。
農地転用前の手続きをしよう
農地転用を行う前には、届出をする、もしくは許可を取得することによって転用を認められる必要があります。
以下では、土地の種類に応じた、農地転用前の手続きをご紹介します。
市街化区域内の一般の農地
市街化区域内の一般の農地は、農地転用をするにあたって許可を取得する必要はありませんが、その代わりに届出を行う必要があります。
届出の際に必要となる書類は、
- 土地の位置を示す地図
- 土地の登記事項証明書
などが挙げられます。
また、届出書には、
- 届出者の氏名・住所・職業(法人の場合は、名称・主たる事務所の所在地・代表者の氏名)
- 土地の所有者・耕作者の氏名もしくは名称・住所
- 転用の目的・時期
- 転用の目的にかかる事業または施設の概要
- 転用することによって生じる付近の農地、作物などの被害の防除施設の概要
を記載します。
そして、適正な届出がなされた場合には、受理の通知がなされます。
なお、不受理とする基準としては、
- 農地が市街化区域にない
- 届出者がその農地の権原を有しない
- 必要な書類が添付されていない
場合が挙げられます。
生産緑地
生産緑地とは、市街化区域内において農林漁業との調和を図るために指定された土地を指します。
生産緑地は農地の保全などを目的としており、税制上の優遇を受けられる一方で、土地利用に関しては多くの規制が設けられています。
生産緑地は、原則として転用することができません。
しかし、生産緑地に買い取り申請を行ってから3か月以内に所有権が移転されなかった場合、市街化区域内の一般の農地と同様に届出を行うことで転用が認められます。
生産緑地に買い取り申請を行うことができるのは、
- 主たる従事者が死亡した
- 主たる従事者が農林漁業の従事が不可能となる故障をした
- 生産緑地の告示日から起算して30年が経過した
場合に限られます。
そして、買い取り申請を行う際の申請書には、
- 買取申出の理由
- 生産緑地の所在・地番・地目・地積・所有権以外に存在する権利
- 生産緑地に存在する建築物等に関する事項(所在・用途・面積など)
- 買取希望価格
- その他参考事項
などを記載します。
市街化区域外の一般の農地
市街化区域外の一般の農地を転用するには、申請書と必要書類を、農業委員会を通して都道府県知事等に提出する必要があります。
なお、農地が30アールを超える場合には農業委員会が都道府県の農業委員会ネットワークに諮問を図り、4ヘクタールを超える場合には、知事等は農林水産大臣と協議をする必要があります。
申請に必要な書類としては、下記が挙げられます。
- 定款の写し・法人の登記事項証明書
- 土地の登記事項証明書
- 土地の地番を表示する図面
- 転用候補地の位置や付近の状況を示す図面
- 建設予定の建物・施設の面積位置や施設間の距離を表示する図面
- 転用を実施するにあたって必要な資力および信用があることを証明する書面
- 転用の妨げとなる権利を有する者が存在する場合には、その同意があったことを証明する書面
- 転用に関するその他の法令の許認可等を取得している場合は、その旨を証明する書面
- 農地が土地改良区の地区内に存在する場合には、その土地改良区の意見書
- 転用事業に関して取水または排水について、水利権者や漁業権者、その他関係利者の同意を取得した場合、その旨を証明する書面
- その他参考となるべき書類
また、申請書には、
- 申請者の氏名・住所・職業
- 土地の所在・地番・地目・面積・利用状況・普通収穫高
- 転用の事由の詳細
- 転用の時期
- 転用の目的にかかる事業または施設の概要
- 転用の目的にかかる事業の資金計画
- 転用することによって生じる付近の農地、作物などの被害の防除施設の概要
- その他参考となるべき事項
を記載します。
市街化区域外の農振地域の農地
農振地域(農業振興地域)とは、農業の振興を目的とした地域で、農用地区域とその指定を受けない区域に分けられます。
農用地区域の指定を受けていない土地に関しては、市街化区域外の一般の農地と同様に、転用の手続きを進めます。
一方で、農用地区域の指定を受けている土地に関しては、原則として転用が認められていません。
農用地区域に指定されている土地を転用するためには、農業振興地域整備計画を変更し、その土地を農用地区域から除外する必要があります。
除外の要件としては、
- 代替すべき土地が農用地区域以外に存在しない
- 農業上の効率および総合的な利用に支障を及ぼすおそれがない
- 効率的かつ安定的な農業経営を行うものに対する農地利用の集積に支障を及ぼすおそれがない
- 農用地区域内の土地改良施設の持つ機能に支障を及ぼすおそれがない
- 農業基盤整備事業の完了後から8年が経過している
ことが挙げられます。
土地が上記の要件を満たし、転用がやむを得ない場合には、市町村長に対して変更の申し出を行うことが可能です。
その後、市町村は計画の変更案と理由書を作成し、その後30日間住民が閲覧できる状態にします。
そして、15日間異議申し立てを受け付け、異議申し立てが無ければ計画が変更され、農用地区域から除外されます。
登記の地目変更をしよう
転用の届出や許可の取得の完了後、登記の地目変更を行います。
地目とは、不動産登記法によって定められている土地の種類を指します。
具体的には、「山林」、「宅地」、「公園」など20種類以上が存在します。
農地は、「田」や「畑」といった地目となっていますが、転用後は1か月以内に実態に即した地目に変更する必要があります。
必要な書類
農地を転用する際に、必要となる書類は以下の通りです。
■地目変更登記申請書
法務局のホームページからダウンロードします。
■土地の案内図
地目を変更する土地の場所が分かるような地図を用意します。
■農地転用許可証など農地関連書類
農地転用許可証や農地転用届出書、非農地証明書などを用意します。
■その他
住民票など、ご自身の身分を証明する書類が必要となる場合があります。
窓口での申請方法
法務局の窓口で登記の地目変更を申請する場合には、上記の書類と印鑑を持参し、提出します。
なお、提出前には書類の確認・相談を行うことも可能です。
書類の提出後は、登記処理の完了日の目安を確認します。
そして、処理の完了後には、窓口で登記済証を受け取ります。
郵送での申請方法
郵送で登記の地目変更を申請する場合には、書類のコピーを取り、上から、
- 地目変更登記申請書
- 土地の案内図
- 農地転用許可証など農地関連書類
を重ねてホチキスで留めます。
なお、その他の書類に関してはホチキス留めせず、「原本還付」という付箋をつけておきます。
そして、切手を貼った返信用切手を加えて、宛名と「不動産登記申請書在中」と記載した封筒に入れます。
送付前には法務局に電話をかけて書類の不備が無いかを確認し、簡易書留で郵送します。
その後、書類のミスがなければ、登記の事務処理の完了後に登記済証が郵送されます。
農地転用の手続きは複雑…行政書士に依頼しよう!
こちらでは、農地転用の手続きについて解説しました。
農地転用は土地の種類によって必要となる書類や手続きが異なり、ご自身で行う場合には非常に煩雑な作業が必要となります。
このような煩雑な農地転用は、行政書士に代行を依頼することをおすすめします。
農地転用に関わる書類の収集・作成を的確に行い、ご依頼者様に代わって役所などでの手続きを行うことで、手間を大幅に削減することが可能です。
農地転用でお困りの方は、行政書士に依頼してみてはいかがでしょうか。